2021年11月2日火曜日

三田用水(附:品川用水)の分水樋

■三田用水に…

限った話ではないが、用水や上水は、河川や大きな用(上)用水から分岐した後、当然ながら、流末まで1本の水路だけで完結するわけではなく、流末までには、複数の分水に分岐されるのが通常である。

■しかも…

大概は、複数の村の田用水や呑水に利用されるのだから、往々にして、各村間の水の分配を巡っては、しばしば紛争の火種になる。

多くの場合は、関係村の協議によって、たとえば、灌漑する水田の面積によって、限られた水の分配割合が決定されるのだが、では、その決められた水量を、どうやって、正確に維持するのかについては、今の「ほとんど上水道」みたいな水量計やバルブのない時代には、さまざまな工夫が行われてきたようである。

■その典型例は…

今でも、三田用水の神山分水跡



に、痕跡が残されている

Half Mile Project (coocan.jp) 「三田用水」調査ノート(6) 末尾

  [追記]2014/06/22 神山分水口とほぼ確定 を再録


2014年6月21日の北沢川文化遺産保存の会の定例会「第96回都市物語を歩く 三田用水を巡るⅠ」の折、参加者の一人が体力勝負で、点検口の重いコンクリート製の蓋を少し持ち上げた際、水路の内部の様子を見ることができた



ことから、コンクリート製の水路脇の「穴」と「点検ハッチ」周りが下の図のような構造であることがわかった。



このような凝った構造からみて、ここは、正規の分水である神山口の分水堰と断定してよさそうである。 


ほか、 

諏訪・伊那・木曽の旅【西天竜幹線水路円筒分水工群】 Part1

  以下 

など

が、近世期においても、完璧とはいえないまでも、分水樋の構造には、さまざまな、工夫が加えられていた。

■三田用水については…

品川町役場「品川町史・中巻」同町役場/S07・刊

リンク先のタイトルに「下巻・第3巻」とあるのは誤記

の、pp.487-501に、「御料御霊屋料私料寺料拾四ケ村組合三田用水白樋埋樋桝形分水口普請出来形帳」という、寛政9(1797)年に行われた(玉川上水からの取水圦以外の)分水口などの工事内容とその費用の報告書があり、その折の、鉢山分水の「仕様書」によれば、下図のような仕様となっており

  各分水口の仕様は、箱樋のサイズ、分水樋の長さは全く同一で、ただ、各分水の分水量に合わせて分水樋の断面積に違いがあるだけに止まっている。

■品川用水についても…

同書のpp.389-484に三田用水以上に膨大な往時の記録文書が転載されているが、三田用水のような分水口の仕様が推定できるものはなさそうである。

しかし、

品川用水沿革史編纂委員長倉本彦五郎・編「品川用水沿革史」品川用水普通水利組合/S18・刊

の、pp.54-57には、弘化4(1847)年に行われた、一部の分水口の改修にあたって作成された、「品川用水書留」中の、以下の絵図面が掲載されている。

分水1

二日五日市場・南品川宿方向と、居木橋村・北品川宿方面を分岐させている、現・品川区小山三丁目8地先の「地蔵の辻」の分水口であることがわかる。
(今回、目黒川の南にも北品川宿に属する土地があることを初めて知った)
木造の側壁らしい描写がないので、
単純に白堀の幅分水しているようにも見えたが、この図は「概念図」で、次図が、最終的な図面らしい。

分水1-2
右上の水上側が漏斗状に開いていることや、下方向の分水路と違い
「建」〔縦〕の寸法の記載がないことから、右上から左横方向への水路は
白堀(開渠)に、上方の開いた白樋を落とし込んで設置しているようである


詳細は後日追記予定であるが、水上から大井村等の方向への主水路は白樋ですむのに対し、桐ケ谷村等の方向は道路を潜るため埋樋だったと考えられ、この点では、品川歴史館のジオラマ
2022/02/18撮影

の通りと思われる。

但し、桐ケ谷村等方向への分水樋直下の主水路に、高さが少なくとも5.982寸(181.273㎜)の堰板が必要となるはずである。 

分水2 

「京極様御屋敷脇」とあることと
図面右の水上から左折して「桐ケ谷村」方向に分水していることから
現・品川区荏原二丁目17地先にあった分水であることがわかった

分水3
図面右の水上から、直進で居木橋村方向、左折で桐ケ谷村方向なので、
現・品川区荏原一丁目19地先(同11/12向かい)あたりにあった分水と思われる




用水樋の仕様については、細かい部分によくわからないところはあるが、分水樋は長さ9尺(=1.5間)なので、三田用水のそれの5割増しである。

しかし、分水位置をみると、どこも分水樋は道路を潜っているようなので、そのための、いわば「必然的」な仕様なのだろう。




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